中年週末ハンターの工作教室

狩猟に役立つ道具の自作事例と体験談など

あるクリスマスイブの日 2020年度 出猟記録1

 令和2年12月24日。クリスマスに休暇を取った私はジムニーで山道に入った。数日前に降った雪は幹線道路からは消えていたが、冬期は猟師しか入らない山道にはまだ多く残っており、ジムニーでなんとか侵入できる具合であった。
 山道を進んでいくと幾度か倒木によって道を阻まれた。牽引ロープとジムニーを使って倒木を道路傍にどかせながら、車を山中に進める。目指すのは先輩たちが「渡り」と呼ぶイノシシの通り道だ。
 レミントンM870スライドアクション散弾銃にモスバーグ製のカンチレバー付きハーフライフル銃身とドットサイト、腰についた弾倉ケースにはフェデラルのサボットスラッグ6発と、ヤマドリ用に5号散弾6発が入っており、車にはカモ撃ち用に26インチのリブ銃身と3号と7.5号の散弾も積んでいる。

 倒木をどかしながらジムニーを進める。途中何度かイノシシの足跡を見つけたが、古そうなので一旦スルーすることにした。


 もうすぐ「渡り」だ。雪の山道はどこまで行けるかわからない。途中で雪が深くなり過ぎれば、ジムニーといえども進めなくなる。この日、渡りまで来れたのは幸いだった。
 カーブを曲がると、道端になにやらもぞもぞと蠢くものが見えた。イノシシだ。3匹は兄弟だろうか。道脇で土をほじっていたが、ジムニーに気がつくとトコトコと逃げ出した。大きさからして1歳未満だろう、親は罠にでもかかって獲られたのかな。それほど大きくないので警戒心が薄いのか、本気で逃げているようには思えない。車を止め、鉄砲を持って追いかけることにした。
 ズボズボと脛まで埋まるが、長靴に農作業用のスパッツをはめているので平気だ。むしろある程度雪が深いと短足の子豚ちゃん達は歩みが遅い。雪がなかったら小イノシシ(といってもシマがないので成獣扱い)といえどもすぐに人の視界から消えてしまうだろう。まさに雪は最大の猟具だ。
 安全が確認できるところで銃を構えて立ったまま狙いを定める。ドン!ドン!…1発480円のサボットスラッグを2発放った。あれ?全く当たらない。うーん、立射じゃあダメか…次の弾を込めながらまた歩いて跡を追う。イノシシが立ち止まったところで今度は膝をついて発砲。1匹倒れた。残り2匹が歩き出したのでまた後を追う。さらに3発撃ったところで、もう1匹の足が止まった。

 …弾切れ

 サボットは6発しか持ってきてない。最後の1匹には何もできず、逃げられてしまった。それはまあいい…問題は当たったがいいがバイタルを外した2匹目だ。即死できなかったせいで苦しそうだ。早く楽にしてやらにゃあ…

 とはいえ、スラッグはもうない。ナイフでとどめを刺すにしても、まだ結構元気なので反撃されるかもしれない。後から聞いた話だが、養豚場で働く人は豚に噛まれて指がない人が多いんだそうだ。牙がない子供とはいえ、不用意に手を出すと指を噛みちぎられるので注意したい。 車に戻っても散弾しか…ああ、散弾ならヤマドリ用の5号弾を持っているな。仕方がない、無駄に苦しませるより早いほうがいいだろう。銃口を頭に近づけ、引き金を引く。乾いた音が周囲に響いた。


 後日、料理した肩肉から散弾が出てきた。先輩に聞いたら、もっと銃口を近づけないといけないとか。塞いでしまうと破裂する危険があるので2、3cm離せばいいかな。跳弾に注意が必要だ。

 忍び猟での狙撃と違って、こうして追いすがって仕留めるケースが多い以上、即死しない場合も出てくる。そこで、トドメを刺すやり方を検討しておく必要がある。槍でもあればいいのだが、持ち運びしにくいし、刃物だけ持って柄は現地調達するにしても、手頃な枝がある保証はない。

 鉄でできた棒状のものは必ず持っているので、これにナイフをつけられたらなあ、と思ってネットで検索したが、ホビー用ばかりであまり良い物がない。それもそのはず、銃剣は軍用と見なされ、製造・輸入・販売が禁止されているらしい。うーん、銃の先にナイフつけられたら止めさしに使えるんだけどなあ。銃床側につけるのならO.K.か?いや銃口が自分を向くのでアカン。銃口を塞いでいれば銃剣ではないという屁理屈をこねるとか…多分なんにしろ銃に刃物をつけたら違法っぽい。その場でナイフを銃身に紐で結わえるくらいなら違法とまではいかないかなあ、でも強度が…

 結局はナタのような殺傷力の高い刃物を持つか、1発50円弱の7.5号散弾を至近距離で頭部に撃ち込むしかないのかも。サボット使えば確実なのだが、1発480円だもんな。


 こうして一昨年度に達成できなかった最後の目標「単独でイノシシを取る」はあっさり達成してしまった。犬も歩けば棒に当たる。まさにラッキーゆえなのだが、解体の応援に来ていただいた先輩猟師が「俺なら倒木に道を塞がれた時点で途中で諦めて引き返す」と言っていたので、「倒木をどかしてまで先に進む」という執念と判断が猟果に繋がったのだ。