中年週末ハンターの工作教室

狩猟に役立つ道具の自作事例と体験談など

2期目最大にして最後のチャンス(2019年度-第2猟期その2)

雪がない
 2019年度の猟期は年が明けてもほとんど雪が降らない、記録的な雪不足の年であった。地元のスキー場もまともにオープンできず、スキーに行くこともほとんどなかった。
 我々のグループでは、平日などにベテラン猟師が見切り(どこに獲物が入っているかの検討をつける行為)を行い、人が集まれる週末にグループで猟を行うことが多い。エリアを決めて勢子とタツマに分かれて行う典型的な巻き狩りもあれば、足跡を追って山に入り、途中で分岐しながら獲物を探す猟、あらかじめルートを決めて散開して探索する猟などその時、場所、メンバーによってさまざまだ。
 しかし、そもそも見切りで最も有力な情報は雪の上についた足跡だ。雪はすごい。もちろん経験や知識は必要だが、獲物の種類、大きさ、数、そして通った時間を土よりも遥かに正確に教えてくれる。この地域で狩猟をしていて最大の猟具は鉄砲でも車でもなく雪だとさえ思う。もし雪のない土地に引っ越したらどんな猟をすればいいのか、途方に暮れるかもしれない。


偶然の産物
 あまりに見切りができないので、グループ外不出のクマ穴(熊のねぐらとなる大木)を身に行く機会があり、その途中でワンダリング猪に遭遇し、先輩猟師がこれを仕留めた。またある日には、巻狩が不発に終わったため、午後からカモを狙いに移動したダム湖で偶然居合わせたイノシシが獲れたりと、全く肉に縁がなかったわけではないが、自分で撃つ機会には恵まれていなかった。あとは銃禁エリアでチビイノシシが走り去るのを見たりとか。


最後の週末
 そんなわけで猟期中はカモ撃ちばかりしていたのだが、2月15日を過ぎると捕獲できるのは延長されているイノシシとシカのみ。週末には林道を車で走って獲物の痕跡を探し回った。幸いにも、例年であれば3月まで雪で覆われて車では侵入できない林道も、この年は新しく購入したJB23ジムニーですんなりと走ることができた。そして3月最後の日曜日、そんな林道にわずかに雪が積もっていた。
 午前中は道路を渡ったイノシシの足跡を発見し、追跡するも結局見失った。昼近くになり、コロナ禍で行われた友人の結婚式を見物しに一旦山を降り(本来遠くから眺めるつもりだったのだが、見つかってしまい、狩猟服で写真に映る羽目になった。)昼食をとって再び山に戻り、今度は別の林道に入った。


いるいるっ!
 もう少し行けばその先は銃禁エリア、というところで道路を渡ったイノシシの足跡を発見した。
 雪の溶け具合から見て、ついさっきの足跡だ。少なくとも当日、おそらく午後のもの。しかも、足跡は道路を挟んでふもと側に向かっている。ふもと側は道路や谷で囲まれていて、居場所は限定される。
 この年の最後の目標「単独で猪を取る」を達成するチャンスだ。車を止めると、リュックを背負い、銃を持って足跡を追いかけることにした。


 足跡はあっちに行ったり、こっちに行ったり歩き回っていて、特定の方向に向かっているわけではない。そのうち、土が掘り返された跡を見つけた。「エサしている」先輩猟師がよく言っていた言葉だ。その通り、こいつは食事しなら移動している。いや、移動が食事の一部なのか。周辺には土の匂いが漂っている。近い。距離は分からないが、時間が近い。ついさっきまでイノシシはここにいたのだ。
 追跡を続ける。いつ、どこにイノシシが潜んでいてもおかしくはない。モタモタしていると離れていってしまうのではないかという焦りと、あまり音を立てると感づかれてしまうのではないかという緊張が交錯する。どのくらいのペースで、どういう歩き方をすればいいのか、全くわからない。


一瞬の出来事
 足跡は銃禁エリアの境となる谷の縁を稜線に沿って下っていった。「銃禁エリア側に逃げられたら諦めるしかないな」そう考えながら稜線の足跡を追跡する。途中、手を使わなくては降りられない斜面があり、脱包を確認して銃を背中に背負う。手を使って斜面を降り、再び追跡を再開したが、少しして・・・あれ?これカモシカじゃん!?
 たどっていたのはカモシカの足跡。さっきまでは間違いなくイノシシだった。あの餌場もイノシシがほじくり返した跡に違いないはず。イノシシがカモシカに変化するわけがない。これは途中でイノシシと足跡が重なり、カモシカの方の足跡に「乗った」のだ。
 戻って猪の足跡を探すか・・・ふぅ、と気を抜いた、その瞬間!!


ドドドドドドドドドドドッ!!!


 10m後ろを黒い塊が横切った。イノシシだッ!とっさに銃を構えるが、薬室の中は空。焦ってスライドを引くが、撃鉄が上がった閉鎖状態なので動かない。握りを持ち替えてアクションバーロックを操作し、実包を薬室に送り込んだときにはイノシシは銃禁エリアと境の谷の方に落ちるように駆け降りていった。


 惜しかったといえば惜しかった。もっと早くアクションバーロックを操作していたら?或いは多少部品は痛むかもしれないがいっそ引き金を引いて空撃ちしてからスライドを引いていたら?
 ・・・しかし、よくよく考えてみるとあの場面では「撃たなかった」のが正解だと思える。至近距離ではあったがスラッグでの動的射撃は練習していないし、当たったとしても後ろ足を砕いて半矢にする可能性が高い。運良く即死させてもそのまま谷底に落ちて回収できないかもしれない。カモなら飛べなくなればなんとか回収し、反撃もないので速やかに息の根を止めることが可能だ。しかし、半矢になったイノシシはおそらく谷底に逃げるだろうし、降りていったら逆に襲われる危険もある。ましてや銃禁エリアで銃による止め差しは行えない。
 この日は「発砲可能エリアで生きているイノシシに会えた」というだけで満足しよう、と思うことにした。そもそも、イノシシを追っている間は本当に楽しかったのだ。獲物に近づいていく期待と緊張感を十分に満喫できた。もしかして、カモシカの足跡に乗らずにイノシシの跡を追えていたら、土をほじくるイノシシに会えたのかなあ・・・いや、あれはわざとカモシカの足跡と重なったところで私を巻くために横に飛んだのか?そうしてこちらが気を抜くまでじっと息を殺して潜んでいた?ということは向こうも私に気が付かれるかとドキドキものだったに違いない。などとあの見事な黒い毛並みのイノシシとの駆け引きを振り返りながら、車に戻った。来期また探そう、あのクロブタちゃん。



(しかし結局、2020年度の第3猟期には再会できませんでした。獲られたかな?)