中年週末ハンターの工作教室

狩猟に役立つ道具の自作事例と体験談など

初めて猪を獲った日

 狩猟系ブログなのに狩猟の話をあまりしていないですね。狩猟を始める人の参考になれば、という思いで書いていますが、興味はあるけど自分でやろうとは思わない、という世の中のほとんどの人にとっては、もしかしたら狩猟体験談の方が面白いのかも知れません。
 そこで、記憶に残っているところからいくつか文章に起こしておきたいと思います。自分の備忘録も兼ねて。尤も、面白いかどうかは自分の文章力次第なので自信はないのですが・・・


 臨場感を伝えるために体験談は常体で書こうと思います。


午前中の猟
 平成31年2月初旬。初猟期だった私はライフルを所持するベテラン5名と狩猟に行った。令和2年の記録的な雪不足ほどではないが、この年も決して雪の多い年ではなく、「雪が少ないからイノシシが好き勝手に動き回って場所を特定できん」とベテランたちがよく話していた。この前に2回ほど捕獲の現場に立ち会ってはいたが、稀に見る不猟の年だったらしい。
 この日は朝9時ごろに集合し、作戦を練ってから移動。空き地に車を止め、6人で山に入った。その場所は仲間内で「納骨堂」と呼ばれるほど猪の捕獲実績のある猟場であり、期待していた。しかし、いざ「納骨堂」到着するも獲物の影は見えず、数頭の足跡が観測されただけであった。
 尾根に2名を残し、私を含めて4人が足跡を追って沢に降った。誤射の危険がなく、獲物が通る道を狙えるよう各々配置につく。「ここを逃げてきたら、ここで撃つ」などと色々なことを考えながら待った。しばらくして、「抜けられている」と無線で連絡があり、待機を解除して車まで戻ることになった。


帰り道でうさぎさんに会いました「あ、うさぎ、うさぎ」というと「何しとる、撃てェッ!」って(いやあ弾倉の中はスラッグ弾なんですけど)


 山を降りる途中、少し開けた場所で先輩たちが反対側の山を観察している。どうやら向かいの山にイノシシの痕跡を発見したらしい。


昼休憩
 「午後はあっちを攻める」そう決めると車に戻って昼食を取った。私たちはこうして昼には車に戻って来られる範囲で狩猟を行うことが多い。昼食は車の近くで取るので、お湯を沸かしてカップラーメンを食べるのが普通だ。一応、昼に帰って来れない時のためにおにぎりやサンドイッチをリュックに入れて持ち歩いてはいる。違いはカップラーメンがあるかどうかだが、冬の野外で温かいものが食べれるとそれだけで幸せな気分になる。
 昼食を終えて動き出す。ベテラン2名が車で回り込んで別ルートから山に入り、残り4人はこちら側から配置につく。ここで痛恨なことに私は昼食の後片付けとカンジキの再装着に手間取ってしまい、出発が遅れた。急いで追いかけたところ、午前中の猟で尾根に残った2名がリーダーと分かれ、川を渡って対岸に配置につくのが見えた。


午後の部開始
「さて、自分はどっちに行くべきだろうか?」
 対岸に配置された2人は当然ライフル。川幅は10mもないが、対岸から斜面を狙うとなると50mは離れるだろう。私のスラッグでは心許ない。そう考えて私はリーダーの後を追った。途中で追いついき、そのまま少し話をしながら歩いた。少し進んだところでイノシシの通り道を発見。リーダーが雪山を指さし、「あそこに隠れて待て」と言うのでその通りに雪山の影に隠れた。リーダーが山に入っていき、車で回り込んだ2名と無線でやりとりをしているのを聞きながらしばらく待った。


3匹の子豚
 リーダーが山に入って1時間も経ってなかっただろうか。3頭の獣が小走りに斜面を横切っていくのが見えた。「イノシシだ」あわてて装填し、散弾銃を構える。距離は約50m。


ドーン


・・・外した!続けてスライドを引いて装填し、ドーン、ドーン・・・合計3発スラッグ弾を発射。音に驚いた獲物は走り出し、視界から消えていった。


 ありゃ〜やってしまった。しかしイノシシの逃げた方向にはまだ2人、ライフルが控えている。あの2人が仕留めてくれれば・・・
 しばらくして下流から発砲音が2発。無線が入るのを待つ。


「獲ったか?」
「いや逃げてったわ〜」


 だめか、きっと自分が一番いい場所にいた、こりゃ冷やかされるな。と肩を落とし、しかしせめて少しでも経験を得よう、とりあえずイノシシの歩いた跡を見に行こう、と雪山から出て斜面に近づいた。


「まだ待っとらんとあかんぞ」無線が入る。
「あ、はい。了解です(え?俺の動き見えとるん・・・?こっわ)」


 足跡を見にいくのを取りやめ、もう一度配置に着こうとする。しかし、前の雪山はちょっと遠い。見ると、手前にもう一つ隠れられそうな山がある。ここにしよう。斜面からは10mほど近くなった。


新たな2頭
 しばらく待っていると、斜面を何がか歩いてくる。イノシシだ!2頭!さっきの3匹より明らかに大きい。ゆっくりと歩いていることから、勢子に追われて逃げてきたのではなく、なんとなく上が騒がしいので降りてきた、と言った感じ。全くの無警戒でこちらに気づいていない。
(今度こそ・・・)
 さっきの3匹よりも現れた位置がさらに近く、距離は約30m。慎重に狙いを定め、(狙うと言ってもアイアンサイトのリブ銃身なので、獲物と照星と中間照星を重ねると照星で獲物の半分は隠れてしまうのだが)落ち着いてゆっくりと引き金を引く。


 ドーン


・・・命中だ。倒れて足をバタバタさせているのが見える。(もう1頭は・・・?)逃げるでもなく、その場でぼーっと立ちすくんでいる。
「おい、どうしたん?なんで倒れてるの?」と言った感じだ。


 ドーン


 真横から、左側の首の付け根を狙って撃ち込んだ。つもり!(しかし・・・おや?変化がない。もしかしてイノシシだと思ったのは土の蔭か何かだったのか?)


「どうやった?」銃声を聞いたベテランの一人が無線で訪ねてきたので、
「1頭は当たりました」確実な情報だけを伝える。
「仕留めたんか?」
「えーっと、一応足は止まりました」
「生きとんのか。なら近づいてトドメをさせ」
「了解」


 トドメを刺すために雪山の影から出て近づく。
・・・あれ?


「すみませーん。2つ転がってまーす。」
「は?・・・何言ってんだお前?一つじゃなくて二つか?」
「はい」


 どうやら2発目は急所に当たり、暴れる間も無く即死していた模様。しばらくして別ルートに回った2人とリーダーが降りてきて合流、配置を解除して下流側の2人も合流した。


 


 獲れたのは最初の1頭が推定80kgのメス、後の1頭が推定60kgのオスであった。この年に獲れた初のメスだったらしく、丁寧に皮を取られた肉は綺麗な色をしており、6人でほぼ均等に分けた。一方、同時に獲れたオスがややぞんざいに扱われていたのが少しかわいそうだったが、欲しがる人が少なかったので多めに肉を持って帰った。



反省
 狩猟を始めて最初の猟期にイノシシを獲れたのは幸運でした。リーダーが指示した場所にちゃんと獲物が来たので、もちろん自分一人の力ではありません。しかし、最初の3匹を外して一度冷静になれたのは大きく、その後でより近い場所に変えたことも功を奏しました。
 2回目の猟期は記録的な雪不足のせいもあって結局自分では1頭も仕留められず、3期目は単独で2匹、コンビで2匹を仕留めています。その時の話はまた別の機会にしたいと思います。